読書追考

 出版科学研究所「出版月報2015年2月号」によると、2014年の出版物(書籍・雑誌合計)の推定販売金額が、前年比4.5%減(758億円減)の1兆6,065億円と、10年連続の減少となり、1950年の統計開始以来、最大の落ち込みとなったとのことです。コミックスは約1%増であるものの、残念ながら"全体を牽引する売れ筋商品が乏しく、ベストセラー商品の部数水準も低い”状況が続いています。
 過去の議論では、「出版点数が多すぎて、読書量(消費量)と対応していない(出版数が多すぎて読みきれない)」ため、書籍が売れていないのは、業界における不況というよりは、物理的な状況が原因であるという意見もありました。しかし、販売額が「過去最大の落ち込み」となれば、やはり「生活の中の読書の位置づけ」が低下していることは否めない気がします。スマートフォン・タブレット端末等を利用する電子書籍販売は、電子雑誌の動向も含め、増加傾向にあるようですが、その内容の多くはエンターテーメント系のコンテンツで、教養を深める読書という文脈とは別であると見做せば、「読書離れ」という社会現象もまた、悪化の傾向にあるのだろうと考えられます。
 読書の意義は、どこにあるのでしょうか。①「楽しむ」ため、②「調べる」ため、③「発想する」ため、④「自分とは何かを知る」ため、⑤「問題解決」のため、⑥「行動のバネにする」ため、⑦「考える力をつける」ため、等が様々な視点があると思いますが、いずれも「自分自身を変える」という視点は共通項です。吉田松陰は「学問とは、人間はいかに生きていくべきかを学ぶものだ」と主張しましたが、「いかに生きていくかを学ぶ」とは、「自分自身の変え方を学ぶ」ことと同義として見做すことができます。だとするならば、その根本には「読書」が無くてはならないでしょう。読書という行為こそが、他者による様々な知見や経験に出会う契機であり、自分自身を変える手段なのだと思います。
 某かの理由があって、これまで培ってきた読書慣習を中断してしまったのなら、ぜひ未来の自分のため、読書慣習を復元し、新たな先達とのコミュニケーションを意識してみませんか。「今日の読書こそ真の学問(吉田松陰)」です。

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(※なお本文は、関西大学文学部のコラムに記載した内容と同じものです。)