書評を書いてみました。
あくせす・ぽいんとでも取り組みたい問題でもあり、メンバーの皆さんと議論をしたいと考えていますが、議論のためのベースにすべく、また、広く読まれるべき本であることを宣伝すべく、勝手ながら、書評を書いてみました。(^_^;)。
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石川結貴『ルポ子どもの無縁社会』東京, 中央公論新社, 2011, 238p.(中公新書ラクレ407)
平成12年11月20日に施行された「児童虐待の防止等に関する法律(平成12年5月24日法律第82号公布)」は、平成16年4月14日、平成19年6月1日の2度にわたる改正を経て、現在に至っている。その趣旨は、継続的に続く児童虐待事件を防止し、関連施策を整備・強化することにあったが、未だに「子ども虐待の早期発見」が難しく、「子どもの保護・自立に向けた支援」も十分ではないのが現状である。
厚生労働省のHPにも、「児童虐待による死亡例等の検証」と称して、厚生労働省内での「児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会(第1次〜7次)」による検証報告と共に、平成20年度から23年にかけて、地方自治体による報告書を掲載しており、「虐待死」事例を無くすまでには至っていないは明らかである。
本書『ルポ子どもの無縁社会』は、1988年7月に発覚した東京都豊島区の児童虐待事件を冒頭に、(1)住民票を残したまま1年以上所在不明になる「居所不明児童生徒」の現状や、(2)児童相談所における活動、(3)遺棄児童や置き去り児童の状況等を、過去の統計データや、ジャーナリストとしての取材を通じて議論を展開する。また、児童虐待が生じてしまう社会背景に、(4)ネット社会における人間関係や、(5)核家族化および無縁社会へと突き進んでいく現代社会の有り様があることを指摘し、子供たちの「居場所」をいかに作っていくかについての問題群を提起している。
本書の目次に見られる“現代の捨て子”“餓死した男児の名前は「知らない」”といった言葉を見るだけでも心が痛み、“1183人の「居所不明児童生徒」”が生まれている教育現場が、今の日本社会の暗い側面としてあることを、本書を読むことで我々は再認識させられるだろう。社会構成員たる「大人」は、この課題についてどう取り組んでいくべきか。
厚生労働省「第7次児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会」は、“平成21年4月1日から平成22年3月31日までの間の事例について分析・検証を行うとともに、平成20年4月1日から平成21年3月31日までの間に地方公共団体で検証が行われた事例”などについて”、具体的な改善策を提言した。(『子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について第7次報告』)。
それによると、地方公共団体に対しては、(1)妊娠・出産期を含めた早期からの相談・支援体制を整備すること、(2)予防のための子育て支援体制および児童相談所の体制を充実させること、(3)関係機関の連携を推進することを、国に対しては、(1)望まない妊娠について相談する体制を充実させること、(2)通告義務・通告先等について広報・啓発の一層の充実化、(3)養育者への効果的な指導法についての知見を収集し、それに基づいた指導に関する技法を開発することを求めている。
しかしながら一方で、年々、児童相談所および市町村における児童虐待に関する相談対応件数は増加しており、児童相談所や市町村ほか関係機関が関与していたにも関わらず死亡に至った事例は無くなってはいない。なぜだろうか。その理由はどこにあるのか。
本書は、そのような社会政策面での知見を提供するだけでなく、教育、地域文化、虐待をしてしまう人間の心理などをも考える上でのデータとして活用できる本である。2011.3.11東日本大震災を取り上げるまでもなく、日本社会における「絆」を再構築するために、ぜひ一読をお薦めする。
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※上記「書評」は、「関大・インターデパートメント論集5」(2012,p.77-79)にも掲載されました。